核科学者が語る:原子力潜水艦の仕組みとは?

核科学者が語る:原子力潜水艦の仕組みとは?テクノロジー
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著者情報:AJ Mitchell氏, オーストラリア国立大学・研究員

オーストラリア政府は、米国および英国との歴史的な防衛協定の締結を宣言しました。これにより、新たな原子力潜水艦の艦隊がオーストラリアの海岸および周辺海域をパトロールすることになります。

原子力を利用した船舶の推進力に関する研究は、「核の時代」の幕開けとなった1940年代に開始されました。それ以来、原子力潜水艦を保有・運用している国はわずか6カ国。中国、フランス、インド、ロシア、英国、米国の6カ国のみです。

オーストラリアが900億豪ドル(約7兆2000億円)を投じて通常型潜水艦を新たに建造する契約を破棄したばかりであることを考えると、昨日の発表は多くの人にとって驚きに値するでしょう。

※2021年9月16日、オーストラリアのダットン国防相は、仏政府系軍事企業ナバルグループと2016年に結んだ潜水艦契約を破棄したことを明らかにしました。そして、スコット・モリソン首相は「米国製の原子力潜水艦の配備を決定した。」と発表しました。

スコット・モリソン首相

スコット・モリソン首相は、英国および米国との新たな3国間安全保障協定の一環として、新しい潜水艦艦隊を発表した。Mick Tsikas/AAP

では、原子力潜水艦のどこが「核」なのでしょうか。まず言えることは、原子力潜水艦は核兵器ではないということです。

表面的には普通の潜水艦と同じように見えます。重要な違いは、その動力源にあります。

原子の研究が始まった当初、科学者たちは「原子を分裂させる」ことで放出される膨大なエネルギーが発電に利用できることに気付きました。発電所に設置された原子炉は、70年もの間、世界中の家庭や産業に電力を供給し続けています。同様に、原子力潜水艦にも、それぞれ小型の原子炉が搭載されており、そこから電力を得ています。

原子の中心には、陽子と中性子でできた原子核があります。この陽子の数によって、その原子がどの元素に属するかが決まります。陽子の数が同じで、中性子の数が異なる原子核は、その元素の同位体と呼ばれます。

非常に重い原子核の中には、核分裂を起こしやすいものがあり、その場合には元の原子核よりも質量が小さい2つの軽い原子核に分裂します。残りの質量はエネルギーに変換されます。

アインシュタインの有名な方程式「E = mc²」によると、エネルギーは質量の変化に光速の二乗をかけたものになります。

原子力潜水艦の原子炉は、通常、ウランを燃料としています。地中から採掘される天然のウランは、主にウラン238という同位体で構成されていますが、主要な同位体であるウラン235も少量(0.7%)混ざっています。

原子炉を動かすためには、ウラン燃料を「濃縮」して、必要な割合のウラン235を含ませる必要があります。潜水艦の場合、これは通常約50%です。燃料の濃縮度は、安定した安全なエネルギー出力を得るための連鎖反応を維持するための重要な要素である。

原子炉の中では、ウラン235に中性子が照射され、原子核の一部が核分裂を起こします。すると、さらに中性子が放出されて、いわゆる「核の連鎖反応」が起こります。このエネルギーは熱として放出され、これを利用してタービンを動かし、潜水艦のための電気を作り出すことができます。

原子力化のメリットとデメリットは何?

核分裂連鎖反応の概念図。

核分裂連鎖反応の概念図。neutron generation(中性子発生)©ANU, Author provided

原子力潜水艦の大きなメリットは、燃料補給の必要がないことです。就航時には、30年以上の使用に耐えるウラン燃料が搭載されています。

また、原子力発電は効率が良いため、従来のディーゼル発電機を搭載した潜水艦に比べて、より長い時間、高速で運転することができます。さらに、核反応は燃料の燃焼と異なり、空気を必要としません。つまり、原子力潜水艦は何ヶ月も深いところに潜っていられるので、ステルス性に優れ、より長く遠隔地に展開することができるのです。

欠点は、莫大な費用がかかることです。原子力潜水艦の建造には、1隻あたり数十億ドルの費用がかかり、原子力科学の専門知識を持った高度な技術者が必要となります。世界トップクラスの大学や政府機関が提供する専門的なトレーニングプログラムを持つオーストラリアは、この分野での需要の増加に対応するのに適した環境にあります。また、新たな3国間安全保障条約を通じて、既存の英国と米国の専門知識の恩恵も受けることができます。

現段階では、燃料の調達先の詳細は明らかになっていません。オーストラリアには豊富なウラン資源がありますが、原子炉燃料を濃縮・製造する能力はなく、海外から調達することになります。

使用済み燃料はどうなるのか?

2015年に開催された核燃料サイクル王立委員会は、南オーストラリア州における放射性廃棄物の長期貯蔵・処分施設の商業的実現性を認めました。これが実現するかどうかは、今後何年にもわたって、地方自治体や連邦政府レベルで審議されることになるでしょう。

よくある誤解

もう一度言います。これは、オーストラリアが自国の海に核兵器を配備しようと言っているのではありません。「兵器級」に指定されるためには、ウラン235を90%以上濃縮する必要がありますが、原子力潜水艦の燃料はそれには及びません。

いずれにしても、オーストラリアは核兵器を製造したことがなく、核不拡散条約や核不拡散・軍縮イニシアチブなどの国際輸出管理制度に加盟しています。

潜水艦の戦術的な優位性は、ステルス性と、探知されずに密かに目標を特定できる能力にあります。

海の上では、乗組員と自然環境の両方に対する安全性の維持が重要です。原子力潜水艦が処女航海中に故障したというハリウッド映画「K19:The Widowmaker」は、私たちの感情と核放射能に対する本能的な恐怖を利用しています。

しかし、最新の安全管理と手順の進歩により、潜水艦での原子炉事故は、願わくば過去のものにしたいものです。

この政策決定の戦略的、地政学的な結果はまだ見えていません。しかし、一つだけ明らかなことは、オーストラリアの最新の外交政策は、原子力科学の確固たる受け入れでもあるということです。The Conversation

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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